エリスの葛藤
エリスは自分が皇帝の側室になれば、レヴィアスは黙ってはいない。
そうなれば、きっとなんらかの処分をされることを恐れて、彼女は自殺してしまうのだが、それだけ?と私は思ってしまう。
貧乏子沢山の家柄で、弟たちの面倒を見るために自分は奉公に出る。
貧しくとも愛されて育ち、性格の良いエリス。
皇族だが、肉親の愛情が薄く、ひねくれて育ったレヴィアスの正反対の人物だったと言ってもいい。
そのレヴィアスが彼女の自殺を知った後の彼の両親の反応は、ごく一般的なものだった。
父はそんなこと知らないし、知っていても自分じゃどうすることもできない。
母は栄誉ある皇帝の側室になれるチャンスだったのに、と言った。
レヴィアスは怒り心頭であったが、それって普通の反応なのではないか?
後宮に入った後のことは未知数だが、少なくとも、貧しい庶民が側室へ召し上げられるなら、多額の支度金やら持参金を与えられたはず。
その金に目がくらまない庶民はいないであろう。
愛のある結婚が一番だとわかったところで、食うや食わずの貧しい一家なら、娘を後宮に入れたいはずだ。
なら、エリスはレヴィアスとのことだけでなく、家族との葛藤もあったと考える方がごく自然のように思う。
自分が側室になり、皇帝の子供を産めば、それが日陰の皇子であっても、相応の対応がなされるのはレヴィアスを見ての通り。
(彼は頭がいいのでその先にあるお飾り感に嫌気が差していたが、長いものに巻かれろ方式なら、レヴィアスの父親のようになれる可能性が高い。)
17歳の若い娘が、好きな人がいて、その人を苦しめる道を進まなくてはならないと思ったら、死ぬほどの葛藤をするのが当たり前なんだろうけれど、自殺するほどにと思えば、それは愛する家族を考慮したほうがわかりやすいと思えるのだ。
残念ながら、エリスの死は誰も幸せにしなかった。
当のエリスもレヴィアスを心配して成仏できず、レヴィアスは後ろ向きのまま突っ走って結局は人生に失敗する。
おそらく家族も、そこにはいられまい。
皇帝陛下の側室を苦にして自殺したなんて、それこそただではすまない。
一家離散していた可能性も低くはないだろう。
エリスとレヴィアスが似ているな、と思うのが、後ろ向きからの猛ダッシュぶり(笑)。
元々はそれほど暗い思考でもないだろうに、後ろ向きになった途端、誰も追いつけないほどにダーッと走っていまう。
エリスは自殺。
レヴィアスはクーデター。
エリスとコレットは似ていると言っていたけれど、根本的なところが違う。
トロワでアリオスが言っていたけれど、それはある意味馬鹿なところなんだろうけど、それは前向きで彼を救いたい、癒したいという気持ちの強さの現れだと私は思う。