アガサ・クリスティー
ここ一年ほどクリスティー作品を中心に読んでいます。
それまでクリスティーの代表作といえば「オリエント急行殺人事件」「そして誰もいなくなった」の筋書き程度しか知らなかった。いわば一般的な知識程度。
読んでいると横溝正史とはまた違った閉塞感ある雰囲気のある作品が多く、それがとても心地よかった。
ちょこちょこ書い足し買い足ししておそらくは現在50冊以上は読了しているかと。
まだ未読もあるし、ドラマだけ見ているものもあるけれど、今のところの私のおすすめ本を書き綴りたいと思う。
【本格的なミステリーを楽しみたいなら】
脛に傷を持つ人間が孤島に集められひとり、またひとりと殺されていく。残された人間の疑心暗鬼になっていく様相がじわじわと怖い。
原作と戯曲でラストが違うけれど、アンハッピーエンドに徹した原作の方が個人的には好き。
『アクロイド殺し』
村の有力者であるロジャー・アクロイドが殺害された。単純な殺人ではあるのだが、いたるところにクリスティーの工夫か見られるのでラストを知ってから再度読むことをおすすめする。
尚、ドラマもあるが映像化には向かない作品なのでネタバレを見てもいいから原作から入ることをおすすめしたい。
『火曜クラブ』
こちらはミス・マープルの短編集。マープルもののお得意芸「突然、○○屋の~~さんを思い出したわ」発言に周囲が「マープルさんも随分お年を召したから(ボケたのね)」の流れが各所に見られる。
コンパクトにまとまって読みやすいさは一番だと思う。
【息苦しい閉塞感を楽しめる作品】
『ねじれた家』
一族の家長が殺されたことによって起こるねじれた人間関係。第三者から見た「権力的な家長」「商才のないボンボン」「年寄に嫁いだ年若い後妻」とあるある的な人間関係であるが、実際はよくあるタイプではなかった。
そのひとつひとつの糸を解きほぐす作業がおもしろい。
『無実はさいなむ』
莫大な財産を持つ夫人を殺したのは養子のジャッコ。そして彼は獄中で死亡。けれど、ある日彼の無罪を告げるひとが家を訪ねてくる。そのことで崩れていく家族。夫婦と養子の血縁のない家族はジャッコが犯人であることで落ち着いていたのにまたゆっくりと崩壊していく。そして、真の犯人とは誰なのか。
【恋愛も堪能しながらミステリー】
『ナイルに死す』
美貌財産知性を持つリネット、美貌知性度胸を持つジャッキー、その間で揺れ動いてしまった意志薄弱な好青年サイモンの三角関係を発端に起こる船内での殺人。
最初の殺人が起こるまで割と長いのだけど、それからは雪崩のごとく何度も起こる。そんなの無理だろう!って。そんなツッコミを入れても読んでいて楽しい。
『杉の柩』
エレノアは幼馴染のロディ―と結婚するものと思っていた。しかし、まるで暗雲立ち込める暗示の如く彼女の前に来た匿名の手紙。
それが正しかったようにロディーの心は美しいメアリに心が移っていき、打ちひしがれるエレノア。
メアリを憎みつつもそれでも表面的にはなんでもないように振る舞うエレノアだが、彼女が作ったサンドイッチを食べてメアリが死亡。エレノアは絞首刑を覚悟したのだが。
【乙女ゲーのヒロイン気分でミステリー】
『茶色の服の男』
アンは考古学者の娘。父が亡くなってから巻き込まれる殺人事件。とあるヒントを得て新聞社の社長に掛け合って特派員になり船に潜入。
彼女は男には親切されるけれど女には眉を寄せられるという絶世の美女ではないがそこそこきれいな容貌あたり、ヒロインにはピッタリ。
強引な男、飄々とした男、美貌の婦人等々、行く先々で好かれるアン。
たまに猛烈に嫌われる場合もあるところがまた乙女ゲーっぽい。
『青列車の秘密』
ポアロものだが、ヒロイン・キャサリンが「気難しい女主人のところでもきちんと仕えあまつさえ気に入られた結果未亡人の財産を相続し、青列車で旅に出たときに殺人事件に巻き込まれる」と乙女ゲーキャラっぽい。また、彼女は素材はいいが垢ぬけていない。それにややとうが立っているところが絶世の美女ではなくどこにでもいる感じ。
ミステリーとしては凡作だけど、次から次へとキャサリンに惚れてくる様は乙女ゲーの分岐点を見ているようで。
尚、「茶色の服の男」のアンは勝気なヒロイン、「青列車の秘密」のキャサリンは温和ヒロイン。
【ドラマで面白かった作品】
何度も映像化しているけれど、D・スーシェ版のオリエント急行は筋書きは原作通りだけれど「ひとが例え悪人であっても勝手に裁いていいものか」というテーマになっているので、原作よりもずっと重苦しい。
それゆえに原作とは違って面白さを実感できる。
『先勝記念舞踏会事件』
ミステリーとしておもしろいわけではなく仮面舞踏会の衣装が見ていて楽しい。
これをドラマにしたい!という気持ちがよくわかる。
【睡眠薬か!と思わせるほど眠くなる作品】
『七つの時計』
ある日突然七つの時計が鳴り響く…くらいしか覚えていない。覚えているのは10項に一度は猛烈な眠気に襲われるというもの。
クリスティーはミステリー以外にも書いているけど、どうもスパイ小説とは肌に合わない。
クリスティーは多作なので凡作も結構ある。
ミステリーとして面白いものなのか、描写が優れているのか、そこを選択の基準にするとそれほど外れないように思う。